私が呆然としていると、香取さんが戻って来た。


「すまなかった。君に嫌な思いをさせてしまったね?」


「あの人、蘭子さんっておっしゃるの? どんな人なんですか?」


「名前は藤堂蘭子。藤堂家は、由緒ある家柄らしい」


「香取さんは、あの人とお付き合いしてたのよね?」


「一応はね。去年、見合いみたいな事をされて、それ以来ずるずると……」


「蘭子さんを愛してたんですか?」


「いや、それはない。彼女の事は好きでも嫌いでもなかった。俺としては、伯父貴に義理立てしてただけなんだ」


「伯父さま?」


「ああ。お袋の兄で、野村家の当主。藤堂蘭子を俺に紹介したのは伯父貴なんだ」


「香取さんは野村財団の次期総帥なの?」


「さあ、どうなんだろうね?