「早速だけど、君の音、聞かせてくれないかな?」

「今、ですか?」

「そう。決断は急ぐからね」

 今って、夜もいい時間、だよね。

 近所迷惑とか言われちゃうよ?


「此処は防音設備が整っているから、安心して」

「……はぁ」

 部屋の片隅に無造作に置かれた、電子ピアノに

 ソッ、と足を運んだ。

 何弾いたらいいんだろ?

 クラシック、だと退屈かな?

 人前で弾くとなると、幼稚な曲も飽きられちゃうよね。

 そだ!

 折角だから。
 あたしの一番のお気に入り。

 縦ノリばかりを演奏している彼らには珍しく、しっとりしたバラード調。

 たしか、『月の調』って言ってたよね。

 あたし、この曲聴いてファンになったんだもの。

 だから、自分流だけど、これだけは弾けるようになったんだから。

 ゆっくりと鍵盤の上を滑らすように、指を動かしてみた。

 流石に、本人たち目の当たりにして弾くのは、緊張するね。