――茅那side――
ビンタの痛みが襲ってくると思っていたのに、頬に衝撃はなくて。
「え……た、高瀬くんっ……!」
逆に悲鳴的な声を上げたのは、私を囲んでいた女の子たちだった。
ビンタのために振り上げた女の子の手は行き場を失い、力なく下ろされる。
そしてカタカタと震え始めた。
その理由は……。
「お前ら……茅那に何してんだ」
この修羅場に高瀬くんが現れたから。
そして、ただ現れただけじゃなく……彼は、私の後ろに立って背後から護るように抱き寄せていたから。
筋肉質の力強い腕が私のウエストの部分にまわされている。
「高瀬くん?」
小声で名前を呼んで、そっと顔を上げて彼を見た。
その表情は……周りが凍りつくほどの冷酷で。
これまでに見たことがないくらい鋭い目つきで彼女たちを睨みつけていた。
夏なのに、辺り一面が真冬になったような気分。
高瀬くんの怒りが見て取れたんだ……。
最初に一言発しただけで黙っている彼に対して、饒舌になるのは女の子たち。
「あ、あのね高瀬くん、これは別にこの子に何かをしていたわけじゃなくてっ……」
「そ、そうよ。私たち何も……」
「高瀬くんと仲良いから、どうやって知り合ったのか聞こうと思って」
「私たちは何も悪いことしてないわっ……その子が高瀬くんに近づかないでって言ってきたのよ!」
「そう! そうなのっ……」
終いには私が悪者になる方向へ。
いや、皆さんが色々と言ってきたと思うんですけど……なんで事実をすり替えちゃうかな。
「高瀬くん……」
“違うんです”と続けようとしたのに、彼はポンッと優しく私の頭の上に手を置いた。
それが『わかってる、茅那は悪くない』と言われた気がして、反論する気も起きなくなってしまう。
私が黙っているからか、女の子たちは次々と私が悪い、と述べていく。
だが、さっきの彼のおかげで……罵詈雑言は私の耳には入らない。


