「うん、ケガしてないね」

「あぁ」

「噛まれた時、死ぬかと思った?」

「思った」

「ふーん、じゃあ……あたしがもっかい噛んであげる」

「は?」


そう言った時には、もう遅く。


目の前には、漆黒の長くて豊かな髪が広がっており……細い腕が自分の両肩にまわされていた。


そして、杏が俺から離れた時に……先ほどまではなかった首筋に一点の熱。


「これでも、死ぬかと思った?」

「……とんだ吸血鬼だな」


ジッと顔を覗きこんで問いかけてくる杏に、フッと笑って返す。

きっと……さっき感じた妖怪への恐怖を、彼女なりに忘れさせるためにこんなことをしたんだろう。


今日の肝試しは忘れられないものになったが、トラウマになるほどでもない。