「え、6時くらいかな」

「講堂にいたのか?」

「うん!」


コックンと大きく頷く杏。


「俺、首筋噛まれたよな? 血吸われたと思うんだけど、何でケガしてねーの?」

「あー……なんでって、それだよ」


自分の首を指差しながら問いかけると、彼女は俺が身につけているネックレスを見た。

は? ネックレス?

ケガしなかった理由がわからずに、顔を横に傾げると、杏が身を乗り出してネックレスに触れてくる。


「忘れたの? 今日、交換したでしょ」

「あぁ」

「あたしが身につけているものは、霊力が宿って厄除けのお守り代わりになるの。だから、陸の身はこれが守ってくれたわけ。噛まれた気がしたのは、あの妖怪にあたしの気配を気付かせないため。ケガは防いだけど……危険な目に遭わせたのは本当だから、ごめんね?」


下から覗き込むように見つめられ、自然と上目遣いになった杏。

その表情は、仕事中とは打って変わり……シュンと悲しげだ。



「いや、助かった。でもお前がいるなんて全然気が付かなかった」


落ち込んでいる彼女の頭を撫でて、『気にするな』と伝える。


「そりゃ、一応神崎の人間だもん。いくら力の強い陸でもわからないように隠れることはできますよ……」


そう呟くように言って、杏は俺の首筋を覗き込んだ。