良く知る声が、講堂内に響いた。
ゆっくりと、瞼を震わせながら目を開ける。
斉木も血を吸うことを中断し、辺りを窺った。
懐中電灯が床の一部を照らしているが、声を発した人物は見えない。
でも、この香りが証拠だ。
甘くて、完熟したような桃の香りが。
「あたしの閻魔大王に手を出すなんて、地獄行き決定~」
いつも聞いている彼女の声よりずっと低音だ。
――パチンッ……
指を鳴らすような音がしたと思ったら。
「ギャアッ!」
今まで俺の目の前にいた斉木が、勢いよく後方へ吹っ飛んだ。
は? な、なんで?
よくわからない展開にポカンと口を開ける。
――ズサァァアアー……
床を滑った奴は、起き上がる気配がした。
「だ、誰だっ! 私の邪魔をするのはっ……」
斉木の地獄から這い上がってきたような低く、硬い声音。
――ズルッ……
たぶん、飛び出した臓器を引きずる音だ。
真っ暗闇の中、不気味に講堂内に響く。
「死人が出るような事件を起こすなら、あたしの名前くらい知っといてくれない?」
そう余裕たっぷりに話す彼女のまわりが、急に明るくなった。


