一歩後ずさる。
これは、ヤバい。
ここから早く出なければ。
そう思っても、入り口の扉は開かない。
――ガチャガチャガチャ!
いくらドアノブをまわしても、ビクともしなかった。
「なんで逃げるの、陸くん?」
ゆっくりと俺の方へ歩み寄ってくる、斉木胡桃。
どうする?
コイツは、マジだ。
幽霊なんかじゃない。
妖怪だ。
背中を冷や汗が流れる。
ジワッと両手にも汗が浮かんできた。
――ズルズルッ……
床に垂れ下がった腸を引きずりながら、斉木は俺の目の前に立ちはだかる。
「陸くん。私に、血をちょうだい?」
大きく裂けた唇の片側をクイッと上げて、気味悪く笑った。
「来んなっ……」
俺の首筋へと口を寄せる奴から顔を反らす。
コイツの目的は、最初から俺だったのか。
だから、ペアになって……院内とメンバーがいる外を隔絶した。
ケータイの電源が切れたのも納得する。
斉木が、切ったんだ。
すべては、俺の血を吸うために――――。
数十センチ先にある、奴の鋭く尖った犬歯。
あれで、今までにどれだけの人間の血を奪ってきたのだろうか。
自分もここで吸われるのかと思うと……鳥肌が立った。
「霊力のある男なんて初めて。さぁ、どんな味がするのかしら」
一際気味悪い声で告げた後、斉木は大口を開けて……。
――ガブッ……
俺の首筋へと噛みついた。


