一度振り返り、微笑んでスッと頭を下げる律儀な奥様に笑みを返して見送る。


だが、奥様は懲りていなかったようで。


「え。なんで裏口に向かうの。あたし、電車で帰るから」

「……俺の話、聞いてたか?」

「えーじゃあ、バスにする!」

「……本当にバカ。せめてタクシーとか言えよ」

「なんでよ、たかが移動にタクシーなんてもったいない。電車が正解でしょ」

「もういい、梶原さんに送り届けてもらうから」

「なにそれ。あたし、荷物扱い!?」


そんな会話が聞こえた。


社長、大変ですね。

彼があんなに怒鳴って叱るのもまぁ仕方ない、と思った。



ふと、左手に付けた腕時計を見れば、12時40分。


「ヤバいっ! 早く戻らなきゃ」


お昼ゴハンもまだだし、仕事もあったんだ。


そう考えて、パタパタと自分の部署へと急いだ。




―完―