明らかに、北原さんの方が年上に見えるのに、そんな彼が若い女性に頭を下げている。
見たことのない光景に言葉が出ない。
やはり、この女性は、重役の誰かの令嬢なんだろう。
じゃなきゃ、こんな対応しないわよ。
チラッと横目で見た黒髪の彼女の反応はというと。
「北原さん、頭を上げて下さい。何も謝罪することはないですよ」
北原さんの肩をポンポンと叩いて、顔を上げるように諭す。
「いえ、貴女様にここまで来ていただくなんてことは……」
「私がワガママ言ったんです、外に出たくて。気にしないでください。いい運動になりましたから」
ニッコリと笑う彼女に、ようやく頭を上げる彼。
「それで、約束のモノです」
肩にかけていたトートバックから分厚い書類を取り出し、北原さんに渡す女性。
「ありがとうございます。助かります」
笑顔で受け取った北原さんは、ホッとした表情になる。
「いえいえ。もともとは、大切なものを忘れたアイツが悪いんですから」
「ですよね」
「はい、うんとたくさん文句言ってくださいね」
「はい」
和やかなふたりの会話を聞いていて、気が付かなかった。
すぐそばにすごい人が来ていたことを。


