でも……このバックに入っているものは。



「イヤです……渡したくないです……」


そう言って、バックを自分の胸に抱えた。


「はァ? お前、仕事嫌なんだろ。センターで歌うことがイヤ。まわりの評価がイヤ。妬み嫉妬を買うのがイヤ。だから辞めたんじゃねーか。もう歌もダンスもしたくねーんだろ?」


「そうですよ……イヤだけど! 唄うことは嫌いじゃないもん。ダンスだって嫌いにはなってない。芸能界辞めたとしても、これは渡せません」



高瀬くんに言いながら、涙が止まらない。

どんな形であれ、≪工藤茅那≫が、この場所で歌って踊っていた証だもん。

手放したくない。


すると。


「じゃーいーわ。歌ダンスに関係ない物は捨ててきてやる」


ーースッ


音もなく、私のバックを奪った高瀬くん。


や、ヤダッ!


「だめっ!」


自分でも、驚くくらいに体が動いた。


高瀬くんから、バックをひったくる。


彼に背を向けて、バックの中に入っていたモノを抱きしめた。