杏が無防備な姿で、俺に抱きつく。


警戒心なんて皆無だ。


というより、さらに自分の胸を押し付けるように抱きついてきた。


はぁ……この天然娘。


なんて、呆れていたら。


――スッ

突然、杏が俺から離れる。


「どうした?」


顔を覗き込んで問いかけると、彼女は近くにあったホワイトボードにスラスラと書き込んだ。


それを見せられる。

そこに書かれてあったのは。




『どんなにフカフカのベッドで陸の匂いがしても……やっぱり本物の陸に抱きしめてもらうのが、一番落ち着く』



どんなものよりも、俺自身の方がいいということだった。


コイツ、俺のベッドで寝ることが好きなのに。

フカフカした場所が大好きだというのに。

それでも、落ち着くのは……。


「そっか。おいで」


嬉しい言葉に、微笑み返し、杏を再び抱き寄せた。