――陸side――


12月24日、クリスマスイヴ。



赤や緑に彩られた街中を走る車の中で、ため息をついた。


車内にいるのでよくわからないが、外は、この時期定番の曲が流れている。



「社長、杏樹様と約束されていなかったんですか?」


「あぁ……何時に終わるかわからない仕事を抱えてんのに、杏を待たせるわけにはいかねーだろ」




運転手の梶原さん相手に話をする。



そう、今日はイヴだってのに……俺は仕事だった。


自分の腕時計を見ると、午後11時に近い。



1日中会社にこもって、書類に目を通し、先ほどやっと終わって、今帰宅するところだ。



だから、杏とは会う約束をしていない。


さすがに遅い時間だしな……これから呼び出したりしたら、杏の家族に怒られそうだ。




アイツは、未だに“声”が出ないから。何かあった時に、対応できない。


イヴに、仕事とか……彼氏としてサイテーかもな。


そんなことを思いながら、窓の外を眺める。




目に映るのは、幸せそうなカップルばかりだ。


少しだけ、自分の仕事がイヤになった。



なにもしてない、悠や蓮のように、ただの学生だったら……杏と過ごすことが出来ていたろうに。


そう思うと、ため息しか出てこなかった。