「このメガネ女。さっさと起きろ」

――ビシッ

デコピンをしてみたが、

「ん~……」

まったく起きねー。

ったく……この天然鈍感メガネ女。


どうやって起こすか、と考えていた時だった。


「やっと見つけた」


俺の後ろから、陸の声が聞こえる。

ガサガサと木をかき分けて、俺たちのもとへやってきた。


「蓮、悪いな。探すのを手伝ってもらって……」

「別に」


フッと陸に笑いかけて、『気にするな』と伝える。

ここは彼氏であるヤツに任せよう。


「じゃ、俺はこれで」


軽く片手を上げ、寝ている杏樹と陸を置いて、その場から離れた。


そして、数歩歩いた時。


「ギャアアアアア!! え、閻魔大王だ!!!!」


後ろから、杏樹のそんな声が聞こえた。

彼氏に向かって閻魔大王は言うヤツはいないと思うが。

まぁ、それがあのメガネ女だな。


「お前ら……仲良くやれよ」

そう小さな声で呟く。

じゃなきゃ、俺が身を引いた意味がなくなるから。


その時。

――キーンコーンカーンコーン

講義の終了を告げるチャイムが鳴った。

まったく、俺の時間をあのカップルに取られた。

今度、陸に何かおごらせるとしよう。

そう考えて、俺は講義の行われる教室へと向かった。



初めて惚れた杏樹を諦めた俺が、次に出会ったのは……未来の嫁となる女。

その未来の嫁に出会うのは―――……数か月後だった。