しかし、そんな俺にもチャンスが来た。


陸が杏樹の他に女と会っているというもので、浮気が疑われた時だ。

陸にはウソをつかれ、浮気相手からは毎日嫌がらせのメール。

学園で初めて会った時の杏樹の目ではなかった。

死人のようで、もうどっかに行ってしまいそうなくらいだった。


チャンスなんて言うと、感じが悪いっていうか、人として悪いとは思ったが、それでも嬉しかった。

夏休みに入ったころ、夕方の公園で、ひとりブランコをこぐ杏樹を見つけた時、何かあったと思った。


陸の気持ちがわからないと言って泣くコイツを、ほっとけなくて。

杏樹が甘えて来た時は、本当にうれしかった。

やっと、あの滝本陸の隣に並んだような気がして。

陸にしか甘えないはずの杏樹が、自分に甘えてくれたということが、心底嬉しかった。



それから、杏樹と陸がすれ違いになり、連絡も取らなくなった。

同時に、杏樹が俺の傍で過ごすようになった。

零の別荘で夏休みを過ごしていたが、杏樹は俺の傍を一切離れなかった。

花火大会の夜、


『アイツのこと、まだ好きか?』


陸への気持ちについて、杏樹に聞いた。

返ってきた答えは、


『わかんない……』というもの。


即答で『好き』と返って来なかったため、もしかしてと思った。

俺のこと好きなんじゃないか。

あの滝本陸から、コイツを奪えるんじゃないか。

俺なら絶対にコイツを泣かせたりしない。

ずっと傍にいてやる。

コイツが怖がるものすべてから護ってみせる。

そう思った時には、


『俺のこと好きか?』


と、尋ねていた。


『好きだよ、会長のこと……』



そう言われた時は……表情を表に出さない俺が自然と笑みがこぼれるくらい嬉しかった。