それをもっと思い知ったのは、陸による吉川についての説明の時。


寝たはずだった吉川が、陸を探して起きてきた。

零が呼びかけても、まったく耳には入っておらず、キョロキョロとヤツを探す。

『杏』

ヤツが名前を呼ぶと、吉川は駆け寄って抱き着いた。

彼女の耳元で会話するふたりは、誰がどう見ても、ただの同級生にも、幼なじみにも見えなかった。


吉川が編入して数か月。

彼女は、自立心が高く、なんでも器用にこなし、他人に甘えるといった行動を見せない賢くて非凡な才能にあふれているという印象だった。


でも、陸の前では、普通の女だった。


甘えて、ワガママを言って、陸にベッタリと抱き着いて離れない。

俺たちにも見せたことのない表情で、完全にふたりの世界。

この男を吉川が心底信頼して、好きだと思い知らされた。


陸には勝てない。


そう思った。

ベッタリとくっついて甘える吉川を見ながら、吉川の素性について聞かされた。

正直、驚きすぎて、何も言えなかった。


だって、この学園の中にいる誰よりもお嬢様と言われる家柄の人間で。


それに、歴史の中だけだと思っていた陰陽師であるなんて、信じられないだろ?


それでも、目の前で本物の術を見せられて、杏樹の力が本当なのだとわかった。