松沢の後ろの席に、悠が座って、こちらをニコニコと笑いながら見ていた。


「干からびているとか言うな……」


俺の顔を覗きこむような体勢でいる彼女を、ギロリと睨む。

もちろん、教室内にいる他のヤツらにはバレないように。

たとえが酷くないか?

俺、お前の親友の彼氏なんだけど。


すると。


「柚莉、本当のことを言っちゃダメだろ? もう少し、柔らかく言わなきゃ」


悠がそう松沢に催促する。

おいおい、悠。

お前も、十分酷いと思うんだけど……。


「じゃあ、なんて言えばいいの?」


クリクリとした大きな目を悠に向けて、松沢が尋ねた。


「う~ん、そうだね。水から引き揚げられて瀕死状態の魚って感じかな?」


……このバカップルめ。

俺をバカにしてんのか?


「そっか! 滝本くんにピッタリだね」


悠が言ったたとえに、手を叩いて笑う松沢。

……。

杏、なんでお前の幼なじみは、こんなに毒舌なんだ。

ニコニコと笑いあうバカップルのふたりを、さらに睨みつける。

なんでコイツらにまで、俺が落ち込まされなきゃいけないんだよ。

ただでさえ、今ダメージを負っているというのに。


「もうヤダ……」


ボソッと呟いて、また机に顔を伏せた。