「あっ…」
リングを見てて、ふとあることを思い出し、あたしは台所へと急ぐ。
1LDKの小さなアパートだから、距離はない。
台所の高さは、あたしには少し高くて、料理しづらいんだよね。
そんなことを考えながら、コップに一杯の水を注ぐ。
コップを手に部屋に戻り、窓際へと歩み寄った。
窓際の壁に、くっつけるように置かれたラック。
その上には、小さな鉢植え。
青々とした小さな植物は…イチゴ。
「ごめんね」
葉っぱを掻き分け、根本に少しずつ水をやる。
いつもはもっと早くにやるのに、今日はバタバタして忘れていた。
白い蕾を、一つ一つ確かめるように見る。
「やっぱりまだ…咲いてないか」
あたしは指で、蕾をちょこんと触る。
裕くんのイチゴ…昨日電話で咲いたって言ってた。
だけど、あたしのイチゴはまだ咲かない。
去年も一昨年も、あたしの方が先だったのに…。
「早いよね」
一人暮らしで、話し相手が居ないから…ってのもあるかもしれないけど、
植物って不思議なもので、気持ちを分かってくれる気がする。
だから、ついつい話し掛けちゃうんだ。



