「あら、もう行くの?」
朝からパタパタと、忙しそうにしていたお母さんが、足を止めた。
「いつもと同じ時間だよ」
あたしは鞄を持ち、朝食を食べ終えた食卓を立つ。
「学校まで連れて行こうか?」
珍しくこの時間に居る、お父さん。
「大丈夫だよ、歩いて行く」
あたしが笑って言うと、「そうか」と、頷いた。
「あなたも早く支度して。カメラ見つかったの?」
「あぁ…今から探すよ」
お父さんも新聞を置いて、立ち上がる。
「んもぉ!」
少し怒った様子の母さんを見て、あたしは何となく笑った。
「じゃあ、行ってきます!」
いつもと何も変わらない朝…。
空は青くて、
風は冷たくて、
ランドセルを背負った可愛い小学生が、並んで登校してる。
何ひとつ変わらない風景だけど、
今日のあたしには特別に見える。
制服を着て、
この時間に、
この通い慣れた道を歩くのは、
もう最後なんだ−…。



