「−…」
俺は手に持ったシャーペンを、転がすように離した。
勉強を始めたのは良いものの…はかどるはずがない。
受験まで時間がないっていうのに…。
自分は何をやっているんだろう。
苺が気になってしょうがない−…。
物音は聞こえず、本当に出掛けてしまったのだろうか…?
だったら苺も出掛けたのだろう。
まさか本当に、一人で飾り付けなんて…。
居るわけないと思いながらも、俺は部屋を出ていた。
そっと、リビングへと続くガラス張りのドアから、ツリーの方を見た。
−…。
まさかとは思ったが、本当に居るとは…。
苺は、小さな背をいっぱいに伸ばして…何かを飾ろうとしていた。
背を伸ばすけど…届かない。
それでもまた伸ばす…。
何度こんな光景を目にしただろう。
始まりは1年の黒板消し−…。
あの時は本当に、何気なく手伝っただけ。
それから少しずつ気持ちが変わっていって…。
今は、手伝ってやりたいと思いながら…怖い。
苺に近付くのが怖い…。
だけど、困っている苺を見ていたら…
自分の手は、ドアを開けていた。



