「…わかった」
俺も立ち止まる。
「苺…」
「裕くん、頑張ってね!…じゃあねっ」
俺の言葉を遮るかのように、苺は手を軽く振ると、少し駆け足で去って行った。
まるで、逃げるように…。
その姿に少し、寂しさを感じた。
何か言葉を見つけたのかと言えば、見つかってはいない。
だけど、名前を呼んだのは、“何か”を伝えたかったから…。
苺が見えなくなっても、俺はしばらくそこに立っていた。
苺が戻ってくるなんて思わなかったし、苺を追いかけようとも思わなかったけど、何となく動けなかった。
歩けばまた、前に進んでしまうから…。
「あ…」
そういえば今日は、袖を引っ張られなかった。
“手を繋いで”
そんな、苺からのかわいいサイン。
最近は一緒に帰っていなかったから、しばらく手も繋いでいない…。
苺の手の温もり、感触を思い出そうとしたけど、
どうしてか、思い出せなかったんだ−…。



