「帰んの…?」
それを言うのが、精一杯だった。
「うんっ、邪魔しちゃ悪いし…」
「でも、何か話あったんじゃねぇの?」
「あ、うん。最近忙しそうだったから、どうしたのかなって思って…。理由分かったから、大丈夫」
「そっか…」
「じゃあっ…」
部屋を出ようとした苺の腕を、俺は無意識のうちに掴んでいた。
「裕くん…?」
「…送るよ」
「えっ、一人で大丈夫だよ?」
ニコニコと苺は笑顔で、
また…痛い…。
「いいから」
俺は苺の前を、歩き出す。
「うん…」
苺は静かに頷いた。
歩きながら、言葉を交わすことはなかった。
何を言ったらいいのか、分からなくて…。
何も言えなくて…。
泣いたり、怒ってくれれば、きっと何か言葉が出てきたのだろう。
だけど、苺を見るとニコニコ笑ってばかりで…。
言葉は出て来なかった。
そんな苺からも、特に言葉は出て来なかった…。
「ここでいいよ?」
一緒に帰る時、いつも別れる場所で、苺は立ち止まった。



