津田はしばらく何も話さずに、ただボーっと海を眺めていた。
確かに海は、青と緑を混ぜた色が透き通り、水面は太陽の光でキラキラと輝いていて、とても綺麗だ。
「ねぇ、西藤くん…もう1回聞いてもいいかな?」
海を眺め終えたのか、いきなり話かけてきた。
「ん?」
「どうして…来たの?」
どうやら、さっきの答えは、やっぱり的外れだったらしい。
“津田に会いたかったから”
そう言えたらいいのに、言えない俺は、
「自由行動っつっても、行くとこねーし…暇だったから」
苦しい言い訳…。
それでも、津田は「ありがとう」と、笑ってくれた。
「西藤くんには、本当にいっぱいありがとうって言わなくちゃね」
「何で?」
津田は、海を見たまま話す。
「だって、あたし西藤くんに、いっぱい助けられてる。
今回だって助けてもらったし、
黒板消しも…
夏祭りでも…
文化祭の時も…
スポーツ大会の時だって…
それに…」
「それに?」
「あっ、うんっ!普通に学校生活でも…えっと、宿題とかっ!」
「宿題は、中野じゃねーの?」
「あっ…そうかもっ。でも…」
津田は視線を、海からこっちに向ける。
「ありがとう」
津田は少し照れながら、微笑んだ。
「っ−…」
ぎゅうっ…
「えっ…」
津田が小さな声を上げる。
その瞬間、俺は津田を抱きしめていた。
“ありがとう”なんて、言われるようなことは、していない。
むしろ、酷いことをしたのに…
津田はずっと笑ってくれてて…
“ありがとう”って…。
「俺…津田のことが−…」



