しかし、健史はここにたどり着くまでに一時もアクマの存在を忘れてはいなかった。 “忘れる”こと自体、健史には不可能に近かった。 「…なぁ、俺このこと伝えたい人がいるんだ。」 ゆきのはその人を否定したりはしなかった。 あえて何も言わずに笑顔で玄関先まで送ってくれた。 ―――アクマが『帰ってくれ』と言っても、これだけは伝えたい。 ―――俺は今、幸せなんだ。