お客さんから、ふわりと香った匂いに思わず、心が和んで。
病気だな、と自分を笑う。


そんなに、長い時間が経っただろうか…

温もりを思い出そうとしてやめた。

欲しくなるだけに決まってる。


カウンター越しに、香りの主を見る。

いつも決まったパスタを頼む、よく知った顔だった。

視線に気づいた彼女に、営業用の笑顔を返して言った。


「ごゆっくり」


どーも、と間延びした返事をして、アイスコーヒーに手を伸ばす彼女から、またあの甘い香りが広がる。




やっぱり、忘れるなんて無理かもしれない。



魅惑の香り、禁断の甘い誘惑。


禁煙四日目の昼下がり。