「加尾ちゃんに龍馬を取られたくなかった。」


龍馬の胸に顔を埋めて泣く。

アタシの涙で龍馬の胸を濡らす。

だけど、アタシの涙で濡れる前から龍馬の胸は濡れていた。


「加尾ちゃんは心が綺麗で、優しくて。それなのにアタシは・・・。」

「おまんも心が綺麗じゃ。」

「嘘だよ・・・。」

「泣くな。わしは加尾に紅葉を泣かさないと約束したんじゃ。」


龍馬はより一層抱きしめる。

慰める言葉が見つからないせいか、ずっとずっとギュッと抱きしめる。


「わしだって、同じだろう。もし、おまんが他の男に取られるとしたらな・・・。」

「うぅ・・。」

「泣くな、それが人間じゃ。」



「どんなに優しい人間だろうが、心のどこかには黒い場所がある。」

「うん・・・。」

「ただ、それを見せんだけじゃ。」



龍馬は痛いくらいにアタシを抱きしめる。


「おまんも十分優しい。これくらいなら誰もおまんを嫌な奴じゃと思わん。」

「でも・・加尾ちゃんが・・。」

「加尾とおまんは違う。加尾にない良いところがおんしにはある。」

「良いところ?」

「そうじゃ。泣くな。おまんはそれでええがじゃ。」




アタシは龍馬の胸の温かさを感じた。

聞こえる鼓動。



なんとなく、嬉しかった。