繭ちゃんが、まじまじと会長を見つめる。


「あ、お兄ちゃんだ」

ポツリと呟いた。

なるほど。

彼女が言っていた「いつも傍にいてくれるお兄ちゃん 」は会長のことか。


「繭ちゃん、あの人は違うよ?」

「違うの?」

「うん、あれは八岐大蛇」


はっきりと彼氏ではないことを告げる。


「本当のお兄ちゃんはね、今頃、心配すぎて社長室内をグルグルと歩き回ってるよ」


落ち着かないほどに。

部屋の中を歩き回ってると思う。

今日は、松沢学園は休みで、会社にいるって言ってたから。


あの閻魔大王がオロオロしてる姿を想像したら、笑えてしまった。

いっつも自信満々のくせに。変態バカ殿様のくせに。全国1頭はいいのに。

あたしのことになると、まるで父親のように慌て出す。

過保護も良いところだ。


「そんなバカに、惚れてるあたしが1番バカなのかも……」


陸のことを思い出すと、会いたくなった。

あのバカ殿様に。閻魔大王に。



「さて、次の仕事を始めますか」


教室の片づけと、先生と生徒達への説明。

窓ガラスの弁償。


早くアイツの元に帰ってやらないと、拗ねちゃうからね。