一瞬だった。

声を上げる隙もなかった。



会長は、突然あたしの顎を掴んで上に持ち上げ……


口を塞いだ─────。



頭の中が、真っ白になり…体が硬直する。

目も開いたままで───…目の前には、会長の顔のドアップ。


思考回路が、ショートしたみたいだった。




「……アイツから、必ず奪ってやる。お前のすべても奪ってやるから…覚悟してろ」


口を離すと、そう告げて、プールを出て行く。



「……今のって………キス…?」


誰もいないプールで、ぽつりと呟くあたしの声が響いた。




この日に起きた事件が、またあたしや陸を嵐の中へ引きずり込んで行く。


フツーに過ごしたいだけなのに、どうして…こんなに巻き込まれるのかな……。