「…あ」
見慣れた出店が列ぶ中、一つの出店に目を奪われた。
「先輩、こっち!」
「えっ、何?」
人を掻き分けながら、真っすぐそこへと向かう。
特別な出店じゃない。夏祭りなら絶対ある出店。
俺は「りんご飴」と、大きく書かれた出店の前に立った。
その名の通り、大きな普通のりんご飴と、小さなひめりんご飴が沢山並べられている。
でも、目を奪われたのはりんご飴じゃない。
「苺先輩がいっぱい居る!」
「へ…?」
俺の後ろから苺先輩が覗き込んだ。
“苺先輩”の正体は…いちご飴。
りんご飴と同じく、赤く着色された飴で、イチゴがそのままコーティングされている。
いちご飴の他にも、黄色いパイン飴や紫色のぶどう飴が並べられている。
「苺先輩、いる?」
これを見た瞬間、苺先輩だと思った。名前が苺で、当たり前のようにイチゴが好きな先輩。
もちろんいると思って、プレゼントするつもりで、苺先輩の顔を覗き込んだのに…
「あ…あたし、りんご飴がいいな」
苺先輩の顔は、強張っていた。
「え?いちごあるよ?」
「うん、でもりんご飴が食べたいから」
本人は笑っているつもりだろうけど、笑ってなんかいない。
明らかにさっきまでの笑顔とは違う。



