「で、一人で何してたの?」
都と後輩が待っているのは分かっているけど、もう少し二人で話していたくて話題を振る。
すると、フッと翔は微笑んだ。
「檜山、この木見て」
「え…?」
翔の視線を追って横の木を見る。
翔が何を見ていたのか、それはすぐに分かった。
どっしりとした幹の大きな木。
そんな太い幹から放射状に伸びた、沢山の枝。
その中の一本の枝に…
纏わり付く様に付いた薄いピンク色。
「桜…?」
今は3月上旬で、花が咲くのはまだ早い。
だけど、ほんの少しだけだが確かに花が咲いていた。
「そう、これ見てた」
もう少ししたら、普通に見られる光景なのに…
もっと多くの花を見られるのに…
何かに引き付けられるみたいに、真っ直ぐに桜を見る翔。
「翔でも花とか見る事があるんだ?」
そんな翔の表情に、何故か恥ずかしくなって、つい皮肉を言ってしまう。
「檜山は女でも興味なさそうだもんな!」
「はぁ!?」
結局いつもの様に口喧嘩が始まろうとした…その時、
「せんぱーいっ!」
高くて可愛いらしい声がした。



