「あの…俺、熱ないよ?」
素直に言うと、母さんは「そうね…」と、表情を曇らせたまま手を離した。
「じゃあ、お腹痛いの?どこか悪いの?」
「いや…そんな事はないよ」
「本当に?」
「本当に」
“学校に行きたくない”そう思っているのに、あまりに心配そうに尋ねるから、仮病を使う事なんて出来ない。
母さんは俺の顔をじっと見つめた後、「良かったー」と表情を一瞬にして変え、
「じゃあ、早く支度しなさいね」
満面の笑みでそう告げると、部屋から出て行った。
「え…」
体調は悪くないのだから、精神的に“行きたくない”事になる。
母さん…俺のメンタル面は心配してくれないのか?
呆気に取られて、ぼーっと部屋のドアを見ていた俺だけど、
あまりに母さんらしい天然な行動だと思うと、ふっと笑いが込み上げた。
そして、ベッドの上から降りて、制服を手に取る。
恥ずかしさがなくなったわけじゃないけど、会ってみればきっと何とでもなる。
母さんの様子を見て、何となくそう思った。
それから…
「母さんって、苺先輩に似てるかも」
気まずいから会いたくないはずなのに、母さんと接しているうちに、やっぱり会いたくてしょうがなくなっていた。



