「え…」
思わず足を止めそうになった。
だけど、階段に差し掛かっても、スピードの落ちない翔の足を、一生懸命追い掛ける。
「何でっ?」
階段を登りながら、切れる息で聞いた。
「…」
翔は何も答えない。
ただひたすら階段を上る。
なんで何も言わないの…?
心の中で思いながらも、何かが怖くて口に出せない。
もうすぐ、私達1年生のクラスがある3階。
翔は津田先輩と一緒に帰るんだっけ…。
私のせいですっかり遅くなってしまったから、きっと津田先輩は待っているだろう。
どこで待っているか知らない私は、教室の前で待っていたら…なんて考えながら、最後の1段を登った。
目の前に広がる長い廊下。
私達は真っ直ぐ早足で進む。
良かった…。
5組の教室が見えて、私はホッとした。
教室の周りには、見慣れたクラスメート達だけ。
津田先輩らしき姿は、どこにもない。
「…檜山」
教室のすぐ前で、翔は足の速度を急に落として、私の名前を呼んだ。
「何?」
さっきの質問に答えてくれるのだろうか?
私も遅れて足を弱めた。



