逃げられるわけないのに、
逃げるものなんてないのに、
どうしようもなく逃げたくて、私は足を止めようとはしない。
でも、一体どこへ行くっていうの……?
顔を上げた時だった。
涙で滲んだ世界。
その中心に何かが、空中を舞うようにゆっくりと、時間をかけて落ちて来た。
ピンク色の……妖精――?
反射的に手を伸ばして、止まる足。
掴めるなんて思わなかったけど、それは私の手の中に収まった。
恐る恐る手を開く私と、
「佳奈っ!」
私を呼ぶ翔の声が合わさった。
……何で。
ピンク色の妖精。
その正体を確かめた私の手は、微かに震える。
「もう、いきなり何なんだよっ」
翔の声はすぐ近くに聞こえて、振り向かなくても追い付かれたことは分かった。
だけど、逃げられない。
動けない。
私を引き止めるのは……ピンク色の妖精。
それは、桜の花びら――。



