「なっ!どうしてそうなんのよっ!!」
私は気持ちのままに、目の前の翔を両手でドンッと押した。
当然、後ろによろける翔。
やりすぎたかも!って、一瞬不安になるけど、翔は倒れることなく2、3歩下がって、両膝に手をついて止まった。
表情を確認すると、顔をくしゃくしゃにして、息を殺して笑っていて……怒っている様子なんて、みじんもない。
もう、完全に翔のペースにのまれてる。
昔は私の方が上手く言い返せていたのに、付き合い始めてからは、それが出来ない。余裕がない。
そんな私を翔は面白がって、こんな風にからかって……。
私は負けず嫌いだから、悔しいと、言い負かしてやりたいと思う。
――だけど、嫌じゃない。
むしろ……嬉しい。
こんな状況に、幸せを感じてる。
「……翔」
今だ笑い続ける彼の名前を、私は小さく呼んだ。
すると翔は、聞き逃すことなく「何?」と、顔を上げる。
「私の背なんて……すぐに追い越してくれるんでしょ?」
「まぁねっ!」
笑顔と一緒に差し出された、翔の片手。
……好き。大好き。
私は微笑んで、その手を取った。



