てっきり逃げ出したと思っていたけど……逃げなかったんだね。
「話したいことあるんでしょ? 行っておいでよ」
私の言葉に、亜耶はただ黙って瞳を揺らす。
好きだから……一歩踏み出すのが、とてつもなく怖い。
痛いほどに分かる、その気持ち。
でも、ここで踏み出さなかったら、亜耶は絶対に後悔する。
私が亜耶のために出来ること。
それは、甘やかすことじゃない。
私は「ふぅ」と、ため息にも似た大きな息を一度吐いて、
「ごめん」
「えっ?……か、佳奈ちゃんっ!?」
亜耶の手を強く引いて、階段を降り始めた。
「やっ……ちょっと!」
可愛らしく抵抗する亜耶。
でもすぐに大人しくなったのは、
きっと藤原先輩と目を合わせたから――。
「……」
先輩は目を見開いて、さっき私が話しかけた時よりも驚いた顔をして、こっちを見ていた。
踊り場まであと1段という所で、私は足を止める。
「じゃあ、私はここで」
振り返って、私より2段ほど高い位置にいる亜耶を見ると、顔を真っ赤に染めて俯いていた。
チョコを持つ手は、微かに震えている。



