「檜山さ、恋した事ないだろ?」
「-…」
一瞬、思わず泣きそうになるくらい、胸が締め付けられる。
だけど、泣いちゃ…変に思わせちゃ…いけない。
「…わ、私だって恋した事くらいあるわよっ!」
「えー?檜山が?」
翔は笑顔を浮かべる。
「何よ?」
「檜山が男と付き合ってんのとか想像つかねぇし!」
「想像しなくていいしっ!」
私がそう言い終わると、翔は立ち上がった。
「戻るの?」
「うん。そろそろ、みんな出て来たし」
翔が振り返って、私も座ったままで振り返ると、うちの学校の生徒の歩く姿が見えた。
「檜山、戻んないの?」
「私は…もう少し」
今、あのクラスメートの中に戻るのは気が引ける。
「そっか…じゃあ」
あ…!
「翔っ!」
一瞬背を向けようとした翔を、私は呼び止めた。
「えっと…部活すんの?」
これを聞くはずだったのに、すっかり話はずれてしまっていた。
「うーん…まだ考えてないけど」
「え…そうなの?」
きっとバレー部に入ると思っていたから、翔の返事は意外な物だった。



