何も答えないで…。
自分から聞いておきながら、心の中ではそう願った。
だけど、私の願いとは裏腹に翔は口を開く。
「走って来なくていい…ってメール来たんだ」
「は…?」
内容の意味が理解出来ない。
そんな私に、翔は丁寧に説明を始めた。
「俺さ、毎日放課後に2年の教室走って行ってたんだ」
「…」
「初めの方は、何てゆーか…避けられてて…早く行かなきゃ、先輩先に帰ってた」
「だから、毎日急いでたの?」
翔がいつも慌ただしく教室を出て行くのは知っていた。
「そう。でさ…さっき、“走って来なくていいよ”ってメールが来たんだ」
翔は嬉しそうに続ける。
「これってさ、先輩との距離ちょっと縮んだ感じしねぇ?」
満面の笑みを浮かべて、幸せそうな翔。
その姿に私は苛立って、
「そぉ?」
思わず否定する。
「そぉだろ!俺の事待ってくれるって事じゃん!」
「えー?もう来んなって意味じゃないの?」
メールの前後のやり取りを知らないから、どんな意味かなんて私が知る余地もない。
だけど、とにかく否定したい意地悪な自分が居た。
すると、翔の表情は急に冷めた物に変わった。
「あー…檜山に言ったのがバカだった!」
「なっ…!」
私は言い返そうとしたけど、次に発せられた翔の言葉に絶句した。



