消灯前の点呼まで時間はまだあるし、そんな夢のような話は絶対にない。だけど、
「もし遅くなっちゃったら、その時はごめんけど、よろしく」
私の言葉に、亜耶はコクンと頷いて、「頑張ってね」と微笑んでくれた。
本当は怖い。
「やっぱり止めた」と、今すぐ言ってしまいたいくらいに怖い。
だけど亜耶の笑顔を見たら、少し安心した。
背中を押されるような気持ちになった。
部屋から出て、ケータイを開いて電話をかける。
相手は……もちろん翔。
電話をすること自体が久しぶりで、呼び出し音にも緊張する。
5回目のコール。
『……っ、もしもし?』
耳元で聞こえた翔の声にドキッとしながら、口を開こうとすると、
『樋山?どうした?』
間を置かずに、翔が聞いてきた。
電話なんて滅多にかけないからだろう。その声には心配の色が滲んでいて、何だか嬉しくなった。
「あ……うん、あのね……ちょっと話があるんだけど……」
何か特別なことを言ってるわけじゃないのに、声が震える。
『分かった。じゃあ今からロビーに来れる?』
「……うん」
『すぐ行くから』



