13センチの片想い。私とアイツの恋の距離


顎を動かすと、口にいっぱいに広がるのは、甘い小豆の味。

試作の時より甘い気がするのは、翔がくれたものだからかもしれない……なんて、私はすっかり上機嫌だった。


教室に着く頃には、半分のたい焼きは私の胃の中に。

それでも、口の中にはまだ甘い感覚が残っていた。

教室からはざわざわと、誰かの気配を感じる。
「亜耶だ」って思った私は、ドアに手をかけた……その時、


「でも、さっき檜山さんと一緒にいたし」


中から聞こえた私の話に、ピタッと手を止める。

聞き覚えのある声……。
ゾクッと嫌な予感がして、それはすぐに確信的なものになった。

「だからぁ、大丈夫だって言ってんじゃん、さやか」

――さやか。

頭の隅に残っていたその名前は、いつだか翔のことを、好きだと言っていた女の子。

“聞いちゃダメ”と、直感した私は、逃げようとしたけど……遅かった。


「檜山さんと岡田くんは、ただの友達だと思うよ!だって……どう見たって、全然釣り合ってないじゃん!」


ドア一枚を隔てて聞こえた言葉。

指先が震えて、口元も震えて、
一瞬にして、胸がすごく苦くなった。