顎を動かすと、口にいっぱいに広がるのは、甘い小豆の味。
試作の時より甘い気がするのは、翔がくれたものだからかもしれない……なんて、私はすっかり上機嫌だった。
教室に着く頃には、半分のたい焼きは私の胃の中に。
それでも、口の中にはまだ甘い感覚が残っていた。
教室からはざわざわと、誰かの気配を感じる。
「亜耶だ」って思った私は、ドアに手をかけた……その時、
「でも、さっき檜山さんと一緒にいたし」
中から聞こえた私の話に、ピタッと手を止める。
聞き覚えのある声……。
ゾクッと嫌な予感がして、それはすぐに確信的なものになった。
「だからぁ、大丈夫だって言ってんじゃん、さやか」
――さやか。
頭の隅に残っていたその名前は、いつだか翔のことを、好きだと言っていた女の子。
“聞いちゃダメ”と、直感した私は、逃げようとしたけど……遅かった。
「檜山さんと岡田くんは、ただの友達だと思うよ!だって……どう見たって、全然釣り合ってないじゃん!」
ドア一枚を隔てて聞こえた言葉。
指先が震えて、口元も震えて、
一瞬にして、胸がすごく苦くなった。



