「分かった。けど……」
チラッと後ろに目を向ける翔。
それを追うと、翔のことを呼ぶ男子の姿があった。
「あっ!後からでいいの!今度でもいいからっ!」
今の状況を忘れかけていた私。
急に恥ずかしくなって、「じゃあ、頑張って」と、一方的に話を終わらせ、背を向けた。
手の中には、温かなぬくもり。
5、6歩足を進めた所で振り返ってみると、楽しそうに男子と話す翔が目に映って、胸がキュッとなった。
翔のことが好きで……
些細なことが、幸せすぎて。
このことを亜耶に、「ありがとう」を込めて伝えたくて、周りを見渡してみる……と、今度は亜耶の姿がない。
それに、いつの間にか輪投げをやっていた場所は、綺麗に片付けられていた。
「もしかして亜耶探してる?」
通り過ぎようとした、バレー部の女子が聞いてきて、私が「うん」と頷くと、
「亜耶なら、教室に荷物片付けて来るって言ってたよ」
そう教えてくれた。
翔にもらったたい焼きを半分に割りながら、教室へと向かって歩く。
しっぽ側を口にくわえて、頭側はまた紙袋の中に戻した。
こっちは……亜耶に。



