「……翔」
バレー部の敷地に戻った私は、裏側から翔を呼んだ。
「あっ、檜山!あの子どうなった?」
手にはたい焼きの生地が入ったボウルを持って、それをかき混ぜながら聞く翔。
その姿は何とも見慣れないもので、私はクスッと笑いながら、「ちゃんとお母さん見付かったよ」と返事した。
「そっか!良かった!」
嬉しそうに笑う翔。
翔のこういう、優しいところが好き。
「ありがとうって言ってたから。それじゃ……」
店番中、私が長く話しかけてるのはあまり良くない。
だからすぐ、この場から離れようとしたのだけど、
「檜山!ちょっと待って!」
翔が私の足にストップをかけた。
何……?
きょとんとする私を残して、翔はテントの奥へ……行ったと思ったら、白い小さな紙袋を持って戻って来た。
そして、
「やるっ!」
その紙袋は私に向かって、弧を描くように投げられた。
「っ!?」
反射的に受け取ったそれは温かくて、柔らかくて、一瞬驚くけど、
中身が何なのかは、袋を開けて見なくても分かった。
近くなった甘い匂い。
中身は……たい焼き。



