そしてそのまま、逃げるように隣の檜山の教室へ入って行った。
そ、それだけ……?
廊下に残される形で、突っ立った俺はポカンとする。
「翔、おはよっ!……って、何やってんの?教室入んねぇの?」
「ん……入る」
背後からかけられた、クラスメートの男子の声に答えて、俺は俺の教室へ足を向けた。
気になっていることはひとつ。
檜山と藤原先輩のこと。
藤原先輩とちゃんと話せって言った日から、ずっと報告を待っているけど、今だに何も言ってこない。
いくら同じバレー部でも、部長になった檜山は忙しそうで、なかなか話しかけられなければ、
やっと話しかけても、さっきのように逃げられる。
せっかくの夏休みも、何もなかったな……。
なんて、そんな気持ちを檜山に抱いていることが、今でも信じられないくらいだけど、
『あっ、あっ!おはようっ!』
いつも勝ち気で俺にムスッとしていた檜山の、あんな姿は珍しくて、面白いと思うのと……可愛いとさえ、思ってしまっていた。
だから、今の状況に満足していて、焦ってなかったのかもしれない――。



