「佳奈ちゃん……岡田と仲良くね」
先輩は微笑んで、そう言い残すと、今度こそ公園を出て行った。
ひとりきりになった公園に、虫の声と、生ぬるい風で木々が揺れる音だけが響く。
「はぁー……」
力が抜けて、ベンチに落ちるように座った私は、やっと「暑い」と感じていた。
暑さを忘れるくらい、緊張した。
でも今、心はすごく軽くて、優しい気持ちに包まれている……そんな気がしてる。
ケータイとストラップを繋ぐ結び目に手をかけて、今度こそそれを外した。
手のひらに乗った、深海珊瑚のストラップ。
一年前に始まった、私と藤原先輩の恋の終わり……。
私の気持ちは“恋”と呼べるほどには、成長しなかったけど……先輩にはすごく感謝してる。
素直な気持ちを教えてくれたのは、紛れもなく先輩だったから。
ストラップを失い、少し寂しくなったケータイを開いて、電話帳を呼び出した。
【岡田 翔】
その名前が目に入るなり、私の手はピタッと止まる。
ちゃんと藤原先輩と話したよ……そう今すぐ伝えたい。
でも――。
私の親指は、翔を通り過ぎた。



