13センチの片想い。私とアイツの恋の距離


“帰る”

その言葉に安堵する俺と、「待って」と思う俺がいた。

檜山のことを聞くなら、ふたりきりの今しかチャンスはない。

だけど、やっぱり言葉に出来なくて、

「……俺、ボール戻しておきますね」

へらっと笑顔を浮かべると、藤原先輩に背中を向けて、ボールの入ったカゴを体育館倉庫へと、押し始めた。


手にはまだしっかり汗をかいていて、ドクンドクンと鳴る心臓。

俺ってこんな性格だっけ……?

言いたいこと、もっとハッキリ言えてたような気がするのに……。

信じられないくらい緊張して、臆病になっている自分に、自分自身で問いかけていると……、

「岡田」

体育館に響いた声。
藤原先輩が俺を呼んだ。

何となく嫌な予感がして、恐る恐る振り返る。

そんな俺に、先輩はいつもと変わらぬ笑顔をフッと浮かべて、

「岡田、俺と佳奈ちゃんの関係、知ってるんだろ?」

聞きたくて、でも聞くのが怖かった内容を、あっさり口にした。

「あっ……」

予想しなかった先輩の発言に、深く動揺しながら、考える余裕もなく、咄嗟に出た言葉は、

「すみません」