でも、そう言われても「そうですか」って、後輩の俺がそのまま帰ることなんか出来ない。
「……じゃあ、手伝います」
俺は先輩が空気を入れたボールを、カゴの中へ入れ始めた。
静かな体育館には、空気を入れる「シュー」って音と、ボールがカゴにぶつかる物音だけが響く。
先輩と気まずくなるようなことが、直接あったわけじゃないんだけど、お互いに何も話さない。
それでも、先輩は何も気にしていないみたいで、いつもの穏やかな顔で黙々と作業する。
対する俺は緊張して、手にかいた汗が尋常ではなかった。
檜山とどうなっているんだろう……。
本当に復縁したり……したんだろうか。
どうしようもなく気になって、聞いてみようかと口を開いては、やっぱり聞けないと閉じる。
そんな行動を、何度も何度も繰り返していたら、
「……岡田?」
藤原先輩が、とても不思議そうな顔をして、こっちを見ていた。
「あっ、えっ」
「終わったよ。大丈夫か?」
苦笑しながら、ポーンッと軽く投げられたボール。
それを焦って受け取りながら、俺は「はい」と返事した。
「ありがとう。帰ろうか」



