13センチの片想い。私とアイツの恋の距離

☆翔side☆


俺と檜山の関係が、本当に“付き合っていた”ものならば、
きっと自然消滅って、こういうことを言うんだと思った。

あれから、檜山と言葉を一切交わしてないどころか、
目が合いそうになれば、どちらともなく目を逸らすから、きちんと顔すら見ていない。

遠距離や他校ならともかく、同じ学校で自然消滅とか、そんなの有り得ないって思っていたけど、

“あぁ、こういうことなんだ”って、身をもって実感した。

こんな状況は嫌だって、それはちゃんと自覚しているのに手立てはなくて。


“諦め”、そんな色が滲み始めた頃だった。

3年生の引退を目前に控えた、初夏の頃――。


部活を終えて帰ろうとした俺だけど、体育館にタオルを忘れたのを思い出して、取りに戻った。

体育館横の扉から、一歩フロアに踏み込んで、

「……」

俺の体は固まった。

「あ……お疲れさまです!」
「お疲れ」

少し遅れた挨拶に、微笑んで返してくれた人は……藤原先輩。

藤原先輩は誰もいなくなった体育館で、ひとりボールに空気を入れていた。

「明日俺らがやりますから、いいっすよ!」

慌てて先輩の手を止めようとするけど、

「やりたくてやってるだけだから大丈夫」

藤原先輩は、やんわりと笑った。