13センチの片想い。私とアイツの恋の距離

♪佳奈side♪


――見るんじゃなかった。

頭の中でそう繰り返しながら、急いで教室の中へと入った。


「佳奈ちゃん、大丈夫?」

私の席で待っていた亜耶の言葉で、自分が何をしに行ってたかを思い出す。

片手に持っているのは、一本だけの箸。

お弁当を食べている最中、不意に箸を落としてしまって、洗いに行ったんだった。

私は亜耶に「大丈夫」と頷いて、席に着く。

「あれ?食べないの?」
「うん。もう時間ないし……いいや」

せっかく洗って来たけれど、食欲なんてどこかに消えてしまった。

ランチクロスで弁当箱を包みながら、微かに震える指先。

いっそのこと泣いてしまいたい。

そう思うほど、翔が津田先輩と一緒に昼食を食べている姿が、ショックだった。


だって……津田先輩には彼氏がいるのに。

それに何より、翔にも――。


……なんて、翔との関係は曖昧なものだと思っていたくせに、心の奥ではしっかりと“彼氏”にしていたみたい。


翔が私の見ていることに気付く瞬間、逃げることも出来たのに、そうしなかった。

私だと分かるように、わざと数秒間見つめ続けた。

私は何を期待しているんだろう。

そんなことをしても、翔は私の所には来ないのに。