何で……。
サァーっと血の気が引いて、ドクンドクンと強くなる鼓動。
まるで、とても悪いことをしている所を見られたような感覚。
2階から俺を見ていたのは――
「裕……くん?」
「……え?」
隣から聞こえた小さな声に、俺はハッと苺先輩を見る。
苺先輩は、同じく向かい側の校舎を見ていて……でも、目線の位置が、さっきの俺とは少し違う。
ゆっくりと苺先輩の視線を辿ると、見ているのは3階ではなく、2階だった。
そこには……こっちを見て、立っている男子。
俺と目を合わせると、逃げるどころか、少し睨んできたその人は、
西藤先輩――。
「あ……」
後退りするように、苺先輩は足を一歩、二歩と後ろに進めると、
「ごめん、翔くん。あたし……行ってくる」
そう告げて、弁当箱も持たずに走り出していた。
「いちっ……」
もちろん俺も、直ぐ様追いかけようとするけど、
フッと浮かんだ、ある人の顔。
それは……西藤先輩の他に、俺と苺先輩の様子を見ていた、もうひとりの人。
……檜山。
西藤先輩は、きっと俺達の仲を疑っている。
だから、すぐに誤解を解かなきゃならないのに……
苺先輩よりも、檜山を追いかけたいと思う自分がいた――。



