「檜山らしー」
そう言って、翔は笑っていた。
……そんな顔、しないでよ。
胸がきゅうっと、苦しくなる。
「普通のチョコだから、味とかそんな美味しくないよ」
素っ気なく言ってみるけど、「いいよ」と、翔は構わずチョコをひとつ手に取った。
私があげたチョコは、バレーボールのチョコレート。
丸いミルクチョコを、バレーボール模様の銀紙で包んだだけの、単純なもの。
見付けた瞬間、「これだ」って思った。だって、私達を繋ぐのはバレーだから。
でも、こんな風に目の前で食べられるなら、有名パティシエがどうのとか唱われている、もっと味にこだわったものを選べば良かったと後悔する。
だけど、
「うまっ」
何でもないただのチョコを、翔は美味しいと言ってくれて、また胸が苦しくなる。
「檜山も食べる?」
「えっ、私いい……」
断ろうとしたのに、差し出されたチョコ。
私はそれを黙って受け取った。
「檜山、ありがとなっ」
「……うん」
今が夜で良かったと、頷きながら、チョコの包みを開きながら思った。
私の目は潤んでいて、顔は……きっと赤いから。



