檜山のことだから、「嫌よ」とか、「何であんたと」とか、一言であっさりと断るだろう。
そう思ったのに――、
「……うん」
聞こえた返事に、思わず檜山の顔を確認すると、
……。
檜山は鼻から口元に手を当てて、俺から目を逸らしていた。
隠れた顔は、やっぱり赤くなっているような気がして、目は潤んでいるように見える。
「ひや……」
「じゃあ、先に学校出るから!」
「え……?」
「誰かに見られたら、厄介でしょ!」
そう言って、檜山は逃げるように教室を出て行った。
パタパタと廊下を走る足音が、耳に残る。
何だ……これ。
胸の中がサワサワして、気持ち悪い。
自分自身の行動が、よく分からない。
いつも少し見上げて見る、檜山の顔。
その身長が羨ましくて、悔しくて、憎らしくて、異性として意識して見えたことなんか、一度もなかった。
だけど今日は……
“女の子”に見えて――。
それは、“バレンタイン”という日のせいなのか、
“付き合っている”という状況のせいなのか、
それとも他に何か理由があるのか、
何なのかよく分からないけど、
「本当……調子狂う」



