「……ありがとう」
口にした瞬間、どうして今さっき言うことが出来なかったのか、分かってしまった。
「どういたしまして」
翔の声を背中で聞いて、私は保健室の中へと入る。
“ありがとう”と言えなかったのは、言ってしまったら翔とふたりの時間が終わってしまうから。
理性は一緒にいちゃダメだって思っていたのに、本能は一緒にいたいと思ってた。
本当は分かってる。
だから私はダメなんだって。
翔が“お人好し”な、わけじゃない。
翔が津田先輩を恨まないのは、津田先輩は私とは違うから。
分かってる。分かってるのに、私の心は弱くて、どうしようもなくて、人を簡単に傷付けてしまった。
保健室のベッドの上。閉められたカーテン。
私は布団を頭まで被って、先生にバレないように、携帯を取り出した。
真っ先に目に入ったのは……ストラップ。
ゆらゆらと揺れる、深海珊瑚のストラップ。
藤原先輩がくれたそれを、私は外してはいなかった。



