13センチの片想い。私とアイツの恋の距離


「……ありがとう」

口にした瞬間、どうして今さっき言うことが出来なかったのか、分かってしまった。

「どういたしまして」

翔の声を背中で聞いて、私は保健室の中へと入る。


“ありがとう”と言えなかったのは、言ってしまったら翔とふたりの時間が終わってしまうから。

理性は一緒にいちゃダメだって思っていたのに、本能は一緒にいたいと思ってた。

本当は分かってる。
だから私はダメなんだって。

翔が“お人好し”な、わけじゃない。

翔が津田先輩を恨まないのは、津田先輩は私とは違うから。

分かってる。分かってるのに、私の心は弱くて、どうしようもなくて、人を簡単に傷付けてしまった。


保健室のベッドの上。閉められたカーテン。
私は布団を頭まで被って、先生にバレないように、携帯を取り出した。

真っ先に目に入ったのは……ストラップ。

ゆらゆらと揺れる、深海珊瑚のストラップ。
藤原先輩がくれたそれを、私は外してはいなかった。